前回の記事では、ウッドデッキにカーテンを取り付けるという身近なDIYを例に、「ロープをピンと張るには張力が必要だ」とか、「ワッシャーで力を分散させるんだ」といった物理の基本的な知恵が隠されていることを見ましたね。
今回は、その続きです!
「物理の知恵は分かった。じゃあ、実際にホームセンターでワイヤーや金具を買うとき、何を基準に選べば良いんだろう?」という疑問が出てきますよね。
そうなんです。世の中には色々なワイヤーの太さや、金具の種類があります。その中から、今回の用途にピッタリ合うものを選ぶプロセスには、実はエンジニアがモノの「仕様」を決める時と同じ考え方が隠されているんです。
難しい専門知識は抜きにして、今回のDIYを通して、モノを「選ぶ」という行為にどんな思考プロセスがあるのか、一緒に見ていきましょう! これは、お子さんが将来何かを作ったり、選んだりする時にもきっと役立つ、実践的な考え方です。
今回、選ぶ必要がある「モノ」たち
ウッドデッキにカーテンを吊るすために、前回ご紹介した以下のモノたちが必要でした。
- カーテン本体
- ワイヤーロープ
- 圧縮スリーブ
- ワッシャー
- ターンバックル
カーテンのデザインや色は趣味で選ぶとして(今回はそこには立ち入りません)、特にワイヤーロープや金具類は、どんな「性能」や「サイズ」のものを選べばいいかを考える必要があります。これが「仕様を決める」ということです。
「ワイヤーロープ」の仕様をどうやって決める?
まず、カーテンを直接支えるワイヤーロープから考えてみましょう。ホームセンターに行くと、色々な種類のワイヤーが並んでいます。
ステップ1:どんな材質がいいかな?
ワイヤーロープの材質には、ステンレス、鉄(炭素鋼)、アルミ、銅などがあります。それぞれの特徴を見てみましょう。
- ステンレス: 錆びにくくて丈夫。屋外で使う今回の用途にぴったり! ちょっとお値段は高めだけど、長く使えるのが良いところ。
- 鉄(炭素鋼): 安くて丈夫だけど、錆びやすいのが難点。屋外だとすぐボロボロになっちゃうかも…。
- アルミ: 軽くて加工しやすいけど、あまり強くない。重いものを吊るすのには向かないかな。
- 銅: 電気を通す性質が特徴的(ワイヤーとしては装飾用なども)。ちょっと高価で、ステンレスほど強くない。時間とともに緑色になることもあります。
今回のウッドデッキは屋外にあるので、風雨にさらされます。錆びてしまうと見た目が悪いだけでなく、弱くなって危険です。アルミでは強度が足りないかもしれません。金や銅は高価すぎますね。
ということで、錆びにくくて丈夫な「ステンレス」が、今回のワイヤーロープの材質として一番良さそうだ、と決めることができます。モノの「特徴」を知って、自分の用途に合うものを選ぶ。これが仕様決定の第一歩です。
ステップ2:太さはどれくらいがいいかな?
材質はステンレスに決まりましたが、今度は太さを選ぶ必要があります。太いワイヤーの方が丈夫で安心な気がしますよね。でも、ちょっと待った!
太いワイヤーの「良いところ」は、たしかに「断線しにくい」ことです。しかし、「困るところ」もあります。
- 重い: 頭上にあると危ないかもしれません。
- 値段が高い: 細いものより値段が上がります。
- たるみやすい: ワイヤー自体の重さが増えるので、ピンと張るためにはもっと強い力で引っ張る必要があります。
- 金具も大きくなる: ワイヤーを通す輪っか(アイ)や、それを取り付ける金具(圧縮スリーブなど)も、ワイヤーの太さに合わせて大きなものを選ぶ必要が出てきます。
こう考えてみると、「ただ太ければ良い」というわけではないことが分かりますね。では、どのくらいの太さが「ちょうど良い」のでしょう?
方針としては、「カーテンの重さやワイヤー自身の重さで断線せず、かつ必要以上に太すぎない」ワイヤーを選ぶことになります。
ここで、前回の物理の知恵が役立ちます!
- 重さ: カーテンの重さ(計算すると案外重かったですね!)と、ワイヤー自体の重さが、ワイヤーにかかる負担になります。ワイヤーは太いほど重くなります。
- 強さ: ワイヤーがどれくらいの力で引っ張ると切れてしまうか、という「破断張力」という性能があります。これはワイヤーの材質と太さで決まります。太いほど破断張力は大きくなります。
- たるみ: ワイヤーのたるみは、重さが大きいほど、そして引っ張る力(張力)が小さいほど大きくなる、という関係がありましたね。
つまり、ワイヤーの「太さ」を決めるときは、「ワイヤー自身の重さ」と「ワイヤーの強さ(破断張力)」が、お互いに影響しあう関係を考える必要があります。
計算をスキップして考え方のポイントだけ見ると、こんな感じです。
- 「ワイヤーが、これ以上はたるんでほしくない」という目標(例えば、カーテンの高さの1%まで、とか)を決めます。
- この目標のたるみ量でワイヤーを張るためには、どれくらいの「張力」が必要か、前回のたるみの式などから目安をつけます。
- この必要な「張力」に対して、選ぼうとしているワイヤーの「破断張力」が十分大きいかを確認します。「安全率」といって、破断張力に対して必要な張力が十分に低くなるように(例えば、破断張力の半分以下に抑える、など)余裕を持たせて考えます。万が一に備える、これもエンジニアリングの重要な考え方です。
- これらの条件を満たすような、ワイヤーの「太さ」を探していくと、「〇〇mm以上の太さがあれば良さそうだ」という答えが見えてきます。
実際に計算してみると、今回の用途なら例えば「直径0.55mm以上の太さが必要」といった、意外と細いワイヤーでも大丈夫という結果が出たりします。(計算自体は少し複雑なのでここでは詳しく追いかけませんが、「重さ」「強さ」「許容できるたるみ」といった要素から適切な太さが決まるんだな、と思っていただければOKです!)
単に「丈夫そうだから太いものを選ぼう」ではなく、目的(たるませたくない、断線させたくない)と、モノの性質(重さ、強度)の関係を考えて、最適な仕様を決める。これが、まさにエンジニアリング的な思考プロセスなんです。
他の道具たちの仕様はどう決める?
ワイヤーロープの仕様(材質:ステンレス、太さ:必要な強度を満たすもの)が決まれば、他の道具の仕様も芋づる式に決まっていきます。
- ターンバックル:
- ワイヤーロープを「必要な張力」で引っ張るための道具でしたね。
- ワイヤーの太さや、どれくらいピンと張りたいかによって必要な張力は変わってきます。
- ターンバックルにも「使用荷重」(これくらいの力までなら安全に使えます、という目安)が決まっています。
- 選んだワイヤーを張るために必要な張力よりも、十分大きい使用荷重を持つターンバックルを選ぶ必要があります。
- 材質も、ワイヤーと同じステンレスにしておけば、前回少し触れた「異種金属が触れ合うことで起こるサビ」を防ぐこともできます。
- 圧縮スリーブ:
- ワイヤーの端で輪っかを作るための金具でしたね。
- これは、**使用するワイヤーの「太さ」に「適合しているか」**が一番重要です。ワイヤーの太さに合ったスリーブを選ばないと、うまく固定できなかったり、外れてしまったりします。
- 材質は、ワイヤーやターンバックルと同じくステンレスを選んでおけば安心です。
- スリーブを固定するには、専用の「圧着ペンチ」が必要です。このペンチも、「どの太さのワイヤーに使えるか」が決まっているので、ワイヤー径に合わせて選びます。
このように、一つのモノ(ワイヤーロープ)の仕様が決まると、それに合わせて他の道具の仕様も次々と決まっていく。まるでパズルを組み立てるようですね。
まとめ:DIYは「仕様決定」の宝庫!モノ選びを通してエンジニア思考を育もう
ウッドデッキにカーテンを取り付ける、という一つのことにしても、
- 使う場所(屋外)の環境を考える(材質選び)
- モノ自体の性質(重さ、強度)を理解する(太さ選び)
- 目的(たるませたくない、壊れないようにしたい)を数値で考える(許容たるみ量、安全率)
- それぞれの部品の役割と、お互いの関係性を考える(他の道具の選定)
といった、様々なエンジニアリング的な「仕様決定」のステップが含まれていることが分かりました。
私たちは普段、家電製品や家具など、誰かがすでに仕様を決めてくれたモノを選んで使っています。でも、その裏側には、今回見たような「この目的のためには、どんな材料を、どんなサイズで使えば安全で長持ちして、ちょうど良いだろうか?」というたくさんの思考プロセスが隠されているんです。
お子さんと一緒に何かを作る時や、身の回りのモノについて話す時に、「これ、何でこの素材なのかな?」「どうしてこの太さなんだろう?」と、「モノの仕様」に目を向けてみるのはいかがでしょうか?
DIYやものづくりは、まさにこの「仕様決定」を体験できる、生きたエンジニアリング教育の場です。公式を覚えるだけでなく、目の前のモノや道具に隠された「考えるヒント」を見つけることで、お子さんの問題解決能力や論理的な思考力を育むことができるはずです。
ぜひ、日常の中の「モノ選び」を、新たな学びの機会に変えてみてください!

