2025年始め、埼玉県八潮市で下水道の老朽化に伴う大規模な道路陥没事故が発生したことは皆さんの記憶に新しいと思います。
現代社会では、AIに聞けば瞬時に答えが手に入ります。しかし、「AIがまだ知らない世界」や、「誰も答えを知らない問題」に直面したとき、私たちはどうすればいいでしょう?
知識の価値は、「どれだけ知っているか」から「知識をどう使うか」へとシフトしています。
本記事ではあえて、「下水道管」という全くの門外漢の領域をケーススタディにします。目的は、下水道に詳しくなることではありません。
- 手持ちの常識と、学校で学んだ基礎知識(数学、物理、化学)だけで、どこまで「最適解」に近い設計論理を導き出せるか?
- 「安さ」「効率」「安全」「倫理」という多面的な制約の中で、設計者が何をどう判断しているのか?
この思考実験を通じて、「技術や経済、倫理など多面的に物事を見ることによる知的興奮」を体感し、「学校で学んだ知識が社会インフラを支える普遍的な論理である」という実感を得てみましょう。
下水道管って何するもの?
デザインは「目的」から。下水道の目的は単純明快、「下水を運ぶ」こと。家庭やオフィスや工場から、というのも付け加えておいた方がいいかも。そうすると、そこらかしこで下水道管が必要、ということがわかる。
下水道管の形態はどんなんがいいだろう
まずは俯瞰的にみてみる
水平に横たわった管の中に、水を入れてみる。それなりにたくさん、入れてみる。水、流れるか?イメージの中では・・・流れない。だって、水平なんだもの。水平な管の中の水を「流したい」と思ったら、水を押してあげる必要がありそう。もしストローの中の水だったら、吹く。でかい管の中の水を人間が吹いたってどうしようもないから、機械に代わりにやってもらう。ポンプか?
ポンプで送るのも、ナシではないのかもしれない。でも多分、めちゃくちゃ電気食うし、効率悪い。何しろ、どこの家庭やオフィスからも下水道管は出てるわけで、それを全部電気の力を借りてポンプを動作させて水を送る。これは非エコだな。
水を自然に流す、いや、自然で水が流れてる、といえば、「川」だ。なんで川は水が流れてるのか。これは小学生でもわかる。そう、「傾斜がある」から。これは、下水道管にも使えそう。水平じゃなくて、傾けて使う。そうすれば、自然に水が流れる。
何度くらい傾ければいいだろう。とりあえず有名な角度で考えてみる。45度?だとすると、100m先に水を送ろうと思ったら、高低差が100m出てくる。ばかばかしい。そんなわけない。じゃあ、30度?それでも、100m先に水を送ろうと思ったら、高低差はやっぱり100x1/√3≒58mは出てくる。んなわけあるかい。ということは、傾けるにしてももっと、はるかに微妙な角度しか傾けていないはず。仮に1度とかだったらどうなんだろう。・・・これは三角比の表がないとわからないか?あまり傾きが緩すぎても、肝心の下水が詰まってしまったら意味がない。
というわけで、まとめると
- 管は傾斜をもって埋設されている
- が、急すぎると地中深く埋設することになり現実的じゃないし、緩すぎると下水が詰まる
- ので、「いい感じの角度設定」があるはず(この「いい感じの角度」は、実は数学で完璧に解を求められるはずだ)
断面形状を考えてみる
続いて、断面形状を考えてみる。下水道管といえば円管、という常識が強すぎて、なかなかそこから離れられない。が、そもそも断面形状を決めるために、どういうことを考える必要があるか、というところから考え直してみる。
まず思いつくのは強度の観点。埋設されているということは、その上の土だの建物だの、車両だのの重さを背負っているということ。それに耐えなければいけない。山に掘られたトンネルなんかもアーチ状をしている。重量に耐える形状は、やっぱり円筒形なのか?家の屋根なんかは三角形だけど、あれは雪が積もらないよう落とす前提の形で、荷重に強いというわけではないのかな?
次に、ものづくりの観点。作りやすい形、作りにくい形があるかもしれない。仮にセメントだとすると、流し込むための型が必要そう。こんなような型を用意して、鉛直方向に上から流し込めば、あまり断面形状によって作りやすさが変わるということはなさそうな気が。まあ、もしかすると、セメントが硬化した後の型の離れやすさが形によって変わる、というのはあるかもしれないけど。

鋼管だったらどうだろう。小さいものだったら熔かしたものを押し出して成型してそう。角のある断面形状だと、押し出しのときにその部分だけ流れが悪いとかで不良品が頻発しそうな感じがするので、ここは円筒断面が有利かも?大きいパイプだったら、押し出しというわけにはいかなさそうだから、やっぱり型を取って熔かした鋼鉄を流し込むんだろうか。
そして、流れやすさの観点。肝心の、「下水を運ぶ」という仕事をしてくれないと意味がない。もしかすると、流路の断面形状によって、下水の流れやすい、流れにくいがあるかもしれない。ここで、理科の授業で川の流れを学んだことを思い出してみる。というか、一般常識として、川は真ん中ほど流れが速く、深い。これは見方を変えると、そういう流路形状が、流れにとって最も安定した形態なのではないか?つまり、こんな断面形状の方が望ましいんじゃないだろうか。四角は、ダメ。

まとめると
- 耐荷重と下水の流れやすさの観点で、円筒形が有利そう。
- 型にセメントや溶融した鋼鉄を流し込んで成型するパターンなら、断面形状によって有利不利はなさそう。小型のものを押し出す方式の場合は、円筒形が有利そう。
- 総じて、円筒形が有利か?
サイズはどんなもんか
断面の直径はどれくらい?
家庭から出てくる下水道管と、工場から出てくる下水道管のサイズが同じわけない。排出する量が全然違うはず。
そして、家庭から出た下水道管だって、世帯ごとに独立の下水道管が引かれていて、それが水道局まで直結しているとは思えない。工事が大変過ぎだし、非効率だ。なので、ある程度まとめて、最終的にはでかい下水道管で水道局まで送り込むはずだ。
そう、場面場面に応じて、下水道管のサイズは変わる、と考えられる。
では、家庭から出てくる下水道管はどれくらいの寸法だろう。円筒形として、直径1m?いやいや、でかすぎだな。20cm?うーむ。なんとなく、トイレで流す水の量と比べて太すぎな気が。流す水量に対して径が大きすぎると多分、汚物が途中でスタックしてしまう気がする。直径10~20cmというところだろうか。
では、下水道管が大集合した後の、”幹線”はどうだろうか。こちらはおそらく、人が立ち入ってメンテをする必要があるので、少なくとも人が立って歩けるくらいの径はあるはず。そして、家庭からくる水量をカバーするだけの容量も必要そうだ。満杯になった直径10cm管の下水が1000世帯分合流して、それを下半円領域に収められるだけの円の直径は・・・約5.3m!なんかそれっぽい数字になったぞ。実際には1,000世帯もの下水道管が100%で流れ込んでくることなんてそうそうないだろうから、直径5.3m管というのは、結構余裕見てることになる。

まとめると
- 家庭や工場など使用シーンによって下水道管のサイズは変わる
- また、上流か下流かでもサイズが変わる
- 家庭からの下水道管は直径10~20cmの円筒と予想。仮に直径10cm管が1000世帯分合流したとしたら、その先の”幹線”にあたる下水道管は直径5m程度
長さ方向にはどれくらい?
もう一つ考えなきゃいけないのは、長さ方向にはどれくらいなのかということ。下水道管の全長ではなく、セグメントの長さ。当然ながら、数kmもある下水道管を輸送することなんてできないから、小分けで持っていったものを現地でつなぎ合わせるはず、と想像する。
で、それがどれくらいなのかと。1m?10m?100m?まず、100mなんていうオーダーは論外。製造したものを現地に陸送するんだとすると、どこの道路に100mの受け皿があるのか、と。1m?なくはないだろうけど、1m単位で区切って持っていくということは、それだけ現地での接続点が増えるということ。工事上面倒くさいだろうし、非効率。さらに、おそらく接続点は他に比べて脆弱になりがちなので、セグメント長は長くして持っていきたいんじゃなかろうか。
工事サイドからはなるべく長く!という要求しかないのだとすると、あとは輸送できるかどうかが制約になる。荷台の長いトラック(名前わからん)に載せたとき、それが一般道路を運べるのか、と。この図のとおり、曲がるときがネックで、当然のことながら、車長が大きすぎると曲がり切れない。なんとか曲がり切れるギリギリの長さが、幾何学的に決まるはず。うまいこと条件設定したら、数学の図形問題みたいになりそう。

ただ、いくら交差点を曲がりきれるからといって、ギリギリ曲がり切れるようなサイズの場合は多分、誘導がつくと予想される。そうすると、日中、交通量の多い道路では成り立たないので、夜間の作業になるのかな。昨今の工事業の残業規制なんかにも、もしかすると関わる話になるのかもしれない。
まとめると
- まず大前提として、製造した管を現地に小分けして輸送すると想像する
- 工事としては、あまりに細かく区切られると都合が悪いので、基本的には長い方が良いと思われる
- 長すぎると、トラックで道路輸送するときに交差点を曲がり切れないので、曲がり切れるだけの長さに収める必要がある
材質なんだろう
最後に、素材について考えてみる。相手は、下水だ。なんかヤバい物質が色々含まれてそう。それらと仲良くやっていける素材が求められるはず。そして、大量に使用されるインフラ設備だから、低コスト性も求められるはず。
仲良くやるにはまず、相手の素性を知っておく必要がある。一体どんな物質が含まれるのか、と。家庭から排出される下水は、なんとなく想像がつく。排泄物の尿素やスカトール、その他有機化合物、洗剤に使われてる界面活性剤なんかか?人体から排泄される有機化合物がそんなに反応性に富んでるとは想像しにくいので、注意すべきは洗剤に含まれている化学物質だろう。
工場からの下水に含まれる物質は・・・産業によって多種多様か?とも一瞬思ったが、意外とそうでもなかったりして。本当にヤバい化学物質の排出量は当然規制されてるだろうから、法令違反がない限りは、ヤバい化学物質が大集合することもないのでは?とも思う。ただ、やはり家庭からは出てこないだろうなーという、金属粉が混じっていたり、樹脂カスが含まれていたり、ということはあるんではないだろうか。
というわけで、手持ちの知識ではあまり、下水成分は具体化できなさそう。そんな中で、下水道管の素材をどう考えるか。
まず言えるのは、量産できる低コスト材、というだけで種類が結構限られてくるだろうな、というところ。道路舗装にコンクリート、建築物に鉄筋が使われるのは、量産できて、なおかつ性能を満足できるからに他ならない。ということで、まさにいま出てきたところで、セメントと鉄は筆頭候補になりそう。
そして、下水成分の素性は具体的にはよくわからないものの、少なくとも水への耐性は求められる。なので、丸のままの鉄はすぐ錆びてしまうからNGだ。鉄系材料にしても、ステンレスなど、何かしら腐食に強い材料が求められるはず。それか、メッキ処理するとか。また、一般に反応性の低い素材を選定しておく方が吉と思われる。
最後に、強度のある材料である必要がある。もうちょっと言うと、圧縮に強い材料が求められるはず。材料には、圧縮に強いものと、引張に強いものがあると習ったことがある。そういう意味でも、セメントはやはり筆頭候補なのではなかろうか。山道のトンネルや東京湾アクアラインのトンネルも、セメントが使われている。圧縮耐性は実例で示されている。
そう考えていくと、ここでふと思いついたのだが、下水道管ももしかすると、鉄筋コンクリート構造なのでは?鉄筋コンクリートは、引張に強い鉄と、圧縮に強いコンクリートを合わせて、互いの弱点を補完したものだ。下水道管は圧縮荷重にさえ耐えればよいのでは?と思ったが、地震で揺さぶられた拍子に引張力が働かないとも限らない。そのとき、コンクリートだけで構成していて亀裂が入ってしまえば、そこを起点に下水道管破裂、なんてことになりかねない。
ここまでまとめると
- 化学反応性、量産性、強度の面から、少なくとも下水道管内壁はコンクリートが筆頭候補として考えられる
- ただし、コンクリートだけでは引張力に弱そうなので、鉄筋コンクリートが採用されている可能性もある
考えてみて、わかったこと
以上、下水道管のデザインについて、門外漢ながら手持ちの知識だけで考えてみた。
- エネルギーの最小化
- 管はポンプで圧送されるのではなく、傾斜を利用して重力の力を借りているはずだ。つまり、まずは「自然の力を借りる」ことで、莫大な電力コストを避けるという、究極の省エネ思想を持っているはずだということ。
- だが、その「いい感じの角度」が何度なのかは、三角比の知識と、下水が詰まらないための流速という制約が絡み合って決まるはずで、手持ちの知識だけでは厳密に決められない。
- 幾何学的な安定性
- 円筒形が有利だという常識は、荷重(土圧や車両)が外側からかかったとき、応力が一点に集中しないという、幾何学上の最も合理的な利点に基づいているのだろう。
- これは、トンネルなど、重量を支えるすべての構造物に通じる、形と力の普遍的なデザイン法則だ。
- コストと弱点のトレードオフ
- 管のセグメント長は、輸送の制約(トラックで曲がり切れるか)と、工事の効率(接続点=弱点の最小化)という、全く異なる二つの制約の中で、最適な長さが決められているはずだ。
- 材質についても、安価なコンクリートと、引張に強い鉄筋を組み合わせることで、「低コスト」と「地震への耐性」を両立させることができるのではないか。
今回の思考実験でたどり着いた仮説
こうして考えてみると、下水道管のデザインは、単なるパイプの設計ではなく、「自然法則」「経済原則」「安全確保」という、多面的な知見を統合して初めて完成する知的総合力の結晶だとわかります。
今回の思考実験では、多くの想定や仮定を前提に話を進めました。
- 下水道管では、傾斜をつけて重力を利用して下水を流しているはず
- 下水道管の傾斜には、工事上の制約と下水の運搬効率から決まるいい感じの角度があるはず
- 強度と流れやすさの観点で、断面は円筒形が有利なんじゃないか
- 一般家庭の下水道管は直径10cmくらいで、それらの集合後の幹線は直径5mくらいのオーダーだろう
- 下水道管はセグメントの状態で輸送され、現地で組み立てられる
- そのセグメント長は道路輸送制約で決まる
- 素材は強度面、化学的安定性の面で、鉄筋コンクリ―トが使用されていると予想
これらについて、実際のところどうなのか、調査結果を近日noteで紹介しますので、お楽しみに!
→ 2025年12月8日:公開しました!https://note.com/yonnie/n/n2d5e262e88b4

