考えてみたら不思議かも?「手が離れない」謎現象に隠された、空気と水の地味にすごいヒミツ

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日々のニュースで、環境問題や新素材、最新テクノロジーの話題が出てくるたび、『もう少し科学的な視点があれば、もっと深く理解できるのに…』と感じることはありませんか?学生時代、理系科目に苦手意識があった方も、大人になってから改めて『なぜ?』と考えることの面白さに気づくことがあるかもしれません。

手のひらをちょっと湿らせて、ぎゅーっと合わせると、なぜか手が離れにくくなる――そんな経験ありませんか?

これ、私も子どもの頃によくやっていた記憶がありますが、先日、私の小学4年生の長男が「見て!手をこうすると、なかなか離れないんだよ!」と、同じ現象に気付いたようです。

「そういえば、なんでこれ、離れにくくなるんだろう?」

大人になって、当たり前のように受け流していた現象の裏には、きっと何か面白い科学の原理が隠されているはず…。

そこで今回は、この現象を取っ掛かりにして、ぶらっとエンジニアリング探索を楽しみたいと思います。

まずは現象を確認してみることに

ひとまずこれを見てください。

言わんとしてることは、この現象です。

おそらく皆さんも経験あるでしょう!という前提でお話しすると、これ、掌が乾燥してたら全然掌同士はくっつかないのに、掌を湿らせて、掌同士をぴたーっとくっつけた場合は、いい感じに掌同士が吸い付き合うんですよね。

ということは、掌を湿らせることがポイントなんでしょう。

この現象のアナロジーを探してみる

掌の湿りで何が起こってるのか、はさておき、その後やろうとしてることは、「掌同士で密閉された空間の体積を広げよう」とする行為です。で、それが妨げに合っている。

これって、なんか似たような現象が身近にあったような・・・

そう、これっすわ。

空気を追い出して密閉したジップロックを広げようとする行為」!

ジップが開いてる場合は、袋を広げようとすると、袋の中の体積が広がった分だけ、外から空気が入ってくる。だから、開こうとすれば、袋はおとなしく追従する。

ところが、ジップが閉じている場合、袋を広げて体積を広げようとしても、ご覧のとおり、頑なに開かない。

まさに、先ほどの掌現象と一緒ですね。

なんでジップの閉じた袋は開きづらいのか

では、なんでジップの閉じた袋は頑として開こうとしないんでしょうか。

ここで使えそうなのが、高校生で習う「気体の状態方程式」!
密室に閉ざされた気体の扱いといえば、もうこれしかない。

おさらいしてみましょう。

PV=nRT:気体の状態方程式
P:気体の圧力
V:気体の体積
n:気体分子のモル数
R:気体定数
T:気体の絶対温度

ジップを閉じている場合、袋の内外で空気の出入りはないから、気体分子のモル数nは一定。
気体定数は定数なので、一定。
袋を開こうと頑張る過程で中の気体の温度は変わらないから、Tも一定。

ということで、先ほどの気体の状態方程式の右辺は一定、つまり、PV=一定です。これはいわゆる、ボイルの法則というやつですね。

PV=一定の中で、袋を頑張って開こうとする行為は、この式でVを大きくしようと頑張る行為に他ならない。

仮にVを大きくすることができたとしよう。PV=一定じゃないといけないから、Vが大きくなった分、Pは小さくならなきゃいけない。つまり、PとVは反比例の関係にある。

Pが小さくなるということは、袋の中の気体の圧力が小さくなるということ。元々内外の気体の圧力は大気圧で等しかったのに、袋の中の気体の圧力だけが小さくなる。こうして、袋を広げようとすると、中の圧力が下がり、内外の圧力差で即座に袋は”袋叩き”に遭う。

これが、ジップを閉じた袋が広がりにくい理由だと考えられます。

たとえば、注射器のピストンを引くと、中の空気が膨張して圧力が下がるのと同じ原理です。ジップロックの袋を広げようとすると、中の空気は『もっと広くなりたい!』と膨張しようとしますが、密閉されているので外から空気が入ってこれません。結果、中の空気の密度が薄くなり、外の空気(大気圧)が袋を強く押しつける形になる、というわけです。

手の湿らせで密閉性があがる?

さて、掌同士のくっつきに話を戻すと、掌に息を吹きかけて湿らすと掌で囲われた空間が広げづらくなるということは、掌に息を吹きかけて湿らすことは、ジップロックでいう、ジップを閉じることと同じことなのでは、と考えられます。

ここで、湿気の役割として3通りのパターンが考えられます。

1つは、シンプルに、掌同士のくっついた範囲の周縁に水の膜を張っている可能性です。ジップロックの代わりに水の膜が空気を閉じ込める役割を果たしてるということです。

もう1つは、乾燥していた手の指紋が湿気で柔軟に動くようになり、掌同士を押し当てたときに変形して、空気の通り道を塞ぐ可能性です。乾燥したものが水分を含むことで柔軟性を得るというのは、圧縮スポンジやカップ麺など、身近にいろいろ例が見られますね。

最後に、少し毛色が変わりますが、表面張力です。先ほどの2つはどちらも、湿気によって結果的に両掌の間に空気が閉じ込められるという話ですが、こちらはそうではなく、単純に表面張力によって掌同士がくっつくということです。下敷きなどのプラスチックの板が2枚重なってたとして、それが濡れていると引きはがしにくい話と似てます。

個人的には、これら3つの全てが複合的に絡んで、”掌離れない現象”を生み出しているのだと考えています。掌を湿気させることによって、指紋の溝が埋まって空気が閉じ込められると同時に、表面張力で掌同士がそもそもくっつき合う状態を作り出しているのではないでしょうか。

まとめ

手のひらを湿らせて合わせると離れにくくなる現象。子どもの頃に誰もが経験したであろうこの不思議な感覚は、高校のときに習った「ボイルの法則」が絡んでそうな現象だということがわかりました。

密閉された空間の体積を広げようとすると、内部の気圧が下がり、外の大気圧との差によって吸着力が生まれる――これは、ジップロックの袋が開けにくい現象と同じ原理です。そして、手のひらが湿ることで、この密閉性が高まります。

湿気の役割としては、以下の3つの可能性が考えられます。

  1. 水の膜による密閉: 手のひらの間に水の膜が張られ、空気の出入りを遮断する。
  2. 指紋の柔軟性: 湿気によって指紋が柔軟になり、互いに変形して空気の通り道を塞ぐ。
  3. 表面張力: 水の表面張力によって、手のひら同士が引き寄せられる。

おそらく、これらすべてが複合的に作用し、あの「離れない!」という現象を生み出しているのでしょう。

この記事にまつわる理数系単元(学び直しのために)

この記事で触れた技術や現象は、高校で学ぶ物理や化学の基本的な単元と深く関連しているかもしれません。もう一度学び直したいと感じた方のために、関連する単元をいくつかご紹介しますね。

【物理】

  • 圧力: 単位面積あたりにかかる力。「大気圧」の概念とその働き。
  • 気体の性質: 空気(気体)がどのように振る舞い、圧力が変化するか。
  • 気体の状態方程式:閉じ込めた空気の圧力・体積・温度の間にある関係を描いた式。

【化学】

  • 水と分子間力: 水の特殊な性質(表面張力など)が、水の分子同士の引き合う力(分子間力)によってどのように生じるか。

これらの単元を学ぶことで、掌の実験だけでなく、身の回りにある様々な製品や現象の「なぜ?」が、より深く理解できるようになるはずです。

この記事にまつわる現象の工業的な応用事例

内外の圧力差」というのが、今回の「掌離れない現象」のポイントでした。同じ原理を工業的に応用した事例を、それを取り扱うメーカーさん情報と併せていくつかご紹介します。

  1. 吸盤(サクションカップ)
    • 吸盤は、表面に押し付けることで内部の空気を排出し、外部との圧力差を作り出して物体に吸着します。ガラスやタイルなどの滑らかな表面に物を固定する際に広く使われています。
      • 吸着盤総合メーカー 株式会社 SCJ: 吸着盤の製造・販売を半世紀にわたり行い、日本一の種類と在庫を誇る総合メーカーです。
      • コンバム株式会社(旧社名:妙徳): 真空パッドや真空・吸着パッドなど、様々な吸着製品を提供しています。
      • CKD株式会社: 空気圧機器や流体制御機器などを手掛けるメーカーで、吸着パッドも製造しています。
  2. 真空パック・真空包装
    • 食品やその他の製品を真空状態で密閉することで、鮮度を保ち、酸化や劣化を防ぎます。これは、袋内の空気を抜いて圧力を下げることで、外部の大気圧との差を利用して内容物をしっかりと固定するものです。
      • 株式会社TOSEI(トーセイ): 真空包装機「TOSPACK」シリーズなど、業務用から家庭用まで幅広い真空包装機を提供しています。
      • 吉川工業株式会社 真空包装事業部: 多様な真空包装機を製造・販売しており、特に産業用で実績があります。
      • 株式会社 西原製作所: 国内で設計・製作を行っており、カスタマイズやアフターフォローにも強みを持つ真空包装機メーカーです。
  3. 真空チャック・真空クランプ
    • 精密加工や組み立ての現場で、ワークピース(加工対象物)を固定するために使用されます。ワークピースとチャックの間に真空を作り出すことで、強力な吸着力を発生させ、安定した加工を可能にします。半導体製造や光学部品の加工などで利用されます。
      • Fuji Engnieering (株式会社エスケー精工 フジエンジニアリング事業部):真空チャックの製造・販売を専門としており、様々な精密機械加工業者などに納入実績があります。
      • カネテック株式会社:吸着関連製品を幅広く手掛けており、電磁式のチャックのほか、真空チャックもラインナップしています。
      • 株式会社ナベヤ:作業工具や治具などを扱うメーカーで、バキュームチャックも提供しています。
  4. 真空ポンプ
    • 容器内の気体を排出し、内部の圧力を下げる装置です。化学、製薬、食品加工、半導体製造など、様々な産業で真空環境を作り出すために不可欠な装置です。
      • 株式会社大阪真空機器製作所: 油回転真空ポンプを中心に、多様な真空ポンプを製造しています。
      • 神港精機株式会社: 真空ポンプやコンプレッサーの製造を行っており、幅広い産業分野で利用されています。
      • 樫山工業株式会社: 半導体・液晶製造装置などに用いられるドライ真空ポンプやメカニカルブースタポンプなどを製造しています。