コーンフレークの「ジッパー付き袋」に隠された、空気と熱の巧妙な科学

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皆さんは、朝食にコーンフレークやシリアルを食べることはありますか?食べ終わった後、袋を閉める際に指で「パチッ」と押し合わせる、あのジッパー。普段何気なく使っているけれど、あれがないと、コーンフレークなんかすぐに湿気ちゃって使い物にならなくなっちゃいますね。

あのギザギザとした部分が、なぜしっかりと袋を閉じることができるのか、考えてみたら不思議ですね。調べてみると、実はこの技術、非常に優れた工夫が凝らされていました。

というわけで今回は、このコーンフレークの袋のジッパーを例に、私たちの日常に潜む「地味にすごい技術」を覗いてみましょう。

なぜあのジッパーは「閉まる」のか?【空気と熱の賢い利用法】

コーンフレークの袋に見られるジッパーは、スライダー(つまみ)を動かすファスナーとは異なり、指で軽く押すだけでピタッと閉まるのが特徴です。なぜ、これほど簡単な動作で、中身をしっかりと密閉できるのか。

その秘密は、主に2つの科学的な原理にあります。

秘密1:目に見えない空気の力「大気圧」を活用する「凹凸構造」

まず、ジッパーの断面を詳しく見てみてみます。片側には「突起(とっき)」があり、もう片側には、その突起がぴったりと収まる「溝(みぞ)」が彫られているように見えます。

1.密着面の増加と空気の排除

指で押すと、この突起と溝が正確にはまり合い、ジッパー部分の接触面積が格段に増えます。この密着によって、袋の内部と外部を行き来する空気の通り道が極めて狭められます。

2.閉じ込められた空気の役割

さらに、この複雑な凹凸構造が、ジッパーを閉めた瞬間に内部の空気を効果的に閉じ込め、外部からの空気の侵入を防ぐ「空気のバリア」を作り出します。これにより、袋の内側と外側が物理的に遮断され、湿気や外部のにおいから中身を守ることができるのです。

この原理は、私たちが普段意識することのない「大気圧」という空気の重さによる圧力と深く関連しています。密着したジッパーの内側に空気が入りにくい状態を作ることで、外側から常に私たちにかかっている大気圧が、ジッパーを押しつけ、しっかりと閉じた状態を保つのに役立っています。これは、物理学における気体の性質や圧力の概念が応用されている分かりやすい例と言えるでしょう。

秘密2:素材の弾力性と微細な「摩擦」の組み合わせ

指で軽く押すだけで、なぜあれほど強固に閉まるのか。これには、ジッパーに使われている素材の特性と、目に見えない摩擦の力が関係しています。

1.素材の弾力性(プラスチックの復元力)

圧着式ジッパーに使われているのは、ポリエチレンやポリプロピレンといった柔軟性と弾力性のあるプラスチック素材です。指で押して突起と溝が噛み合うと、素材自体が持つわずかな弾力性によって、もとの形に戻ろうとする力が働きます。この力が、一度噛み合った突起と溝をしっかりと押し合わせ続け、簡単には離れないようにする働きをしています。これは、物理学における力の作用や、材料科学における高分子材料の特性が活かされているポイントです。同じプラスチック素材でも、弾力性のない硬い材料では成り立たないことがイメージできますかね。

2.閉鎖を助ける「摩擦」の働き

また、ジッパーを閉じる際に突起と溝がこすれ合うことで、わずかな摩擦力が生じます。この摩擦が、閉じた状態をさらに安定させ、外れにくくする補助的な役割を果たします。

ジッパーのデザインと製造に隠されてそうな工夫

ジッパーのデザインと製造にどんな工夫がありそうか、想いを馳せてみました。

デザイン上の工夫

  • 素材:まずひとつとして「ちょうど良い硬さ」が追求されていると思われます。凸が凹の溝にハマったとき、凹が両者の間の空間を囲い込むことがジッパーの成り立つポイントです。「囲い込む」ためには、「ちょうど良い硬さ」の素材が必要です。たとえば素材が硬すぎると、凹が凸を囲みきれず、空気がダダ洩れするので、凹と凸に囲まれた空間も大気圧となり、外からの押さえつけが利かなくなるからです。また、「加工性の良さ」も大事でしょう。後述のとおり、押出成形、熱融着に耐える材料である必要があります。これは、材料科学高分子化学の知識が不可欠な分野です。
  • 形:凹凸という記号では表せませんが、実際には溝の断面形状は台形的なものになっていると考えられます。そうでないと、凸を迎え入れた後の「復元力による囲い込み」ができないからです。
  • 寸法:あまり凹凸の幅が大きいと、開封が大変になることが予想されます。浴槽で小さい桶と大きい桶を逆さにして湯につけ、水面から引き揚げようとしてみたこと、ありますか?大きい方が力がいるはずです。それと同じですね。

製造上の工夫

  • 超精密な加工技術:先ほど書いたとおり、凹凸の寸法はあまり大きいと不都合があるので、日々我々が目にする寸法感に収まっていると考えられます。その寸法感で、空気の漏れを遮断するわけですから、わずかな寸法誤差が命取りです。凹凸形状は押出成形していると考えられますし、その凹凸をベースとなるフィルムにくっつける際も、熱と圧力をかけて溶着していると思われます。熱変形による誤差を生まないためには、シビアな温度管理が要求されることでしょう。
  • 素材の選定と温度・圧力設定:上記の温度や圧力の管理値をどうするか、これは選んだ素材にもよるでしょう。当然、候補となる素材はデザインの段階で挙げられてきますが、実際に試作してみて、加工性も申し分ないことを実際には確認した上で、材料を選定していると考えられます。

この技術を手がける主要企業

日々お世話になっているコーンフレークの袋のジッパーも、調べ考えてみると奥深い技術が詰まっていそうです。この素晴らしい技術は、多くの企業が研究開発や製造に携わることで成り立っています。その中でも、特に代表的な5社をご紹介しましょう。

  1. YKK株式会社
    • 事業概要: ファスナーで世界的に有名ですが、衣料品だけでなく、建材や機械部品、そして圧着式ジッパーのようなパッケージング関連製品も幅広く手がける、多角的な技術企業です。
    • 公式HP:https://www.ykk.com/
  2. 株式会社生産日本社(セイニチ)
    • 事業概要: 「ユニパック」のブランド名で知られる、ジッパー付きポリ袋の専門メーカーです。家庭用から産業用まで、様々な用途に合わせた高品質なチャック付き袋を製造・販売しており、この分野のパイオニア的存在です。
    • 公式HP:https://www.seinichi.co.jp/
  3. 旭化成株式会社
    • 事業概要: 化学、繊維、住宅、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開する大手総合化学メーカーです。食品包装に使われる高機能フィルムや素材の研究開発・製造に強みを持っており、ジッパーの機能性を高める素材も提供しています。
    • 公式HP:https://www.asahi-kasei.com/jp/
  4. 凸版印刷株式会社 / 大日本印刷株式会社 (DNP)
    • 事業概要: この2社は日本の印刷業界を牽引する企業ですが、単なる印刷にとどまらず、食品包装用の多層フィルムや、高機能パッケージの開発・製造にも力を入れています。ジッパー付き袋の加工や最終製品化まで、幅広く事業を担っています。
    • 公式HP:
  5. リケンテクノス株式会社
    • 事業概要: 理化学研究所をルーツとする化学メーカーで、プラスチックコンパウンドや高機能フィルム、食品包装材(「リケンラップ」など)を開発・製造しています。特に食品包材分野で、その素材技術が活かされています。
    • 公式HP:https://rikenwrap.rikentechnos.co.jp/

コーンフレークから学びが得られましたね

たかがコーンフレークの袋、されどコーンフレークの袋。このたった一つの身近な製品に、こんなにも多くの科学や、それを形にするための高度な製造技術が凝縮されているのです。

学生時代に「なぜこれを学ぶのか」が分からなかった理系科目も、こうして身の回りの製品や現象と結びつけてみると、「なるほど、こういう場面で活きてくるのね」と腑に落ちる瞬間があるのではないでしょうか。

教養を深めたい、もう一度学び直したいという気持ちがあるなら、難しい専門書にいきなり手を出す必要はありません。まずは、今回のように、日常のふとした疑問や身近な製品に目を向けてみてください。そこに、きっと「学びの楽しさ」を再発見するヒントが隠されています。

このmakerSideのブログが、皆さんの日々の生活をより豊かにする「知的好奇心の扉」となることを願っています。

この記事にまつわる理数系単元(学び直しのために)

この記事で触れた技術や現象は、高校で学ぶ物理や化学の基本的な単元と深く関連しています。もう一度学び直したいと感じた方のために、関連する単元をいくつかご紹介します。

【物理】

  • 力と運動: 物体に働く「力」の基本的な考え方(摩擦力、弾性力、圧力など)。
  • 圧力: 単位面積あたりにかかる力。「大気圧」の概念とその働き。
  • 気体の性質: 空気(気体)がどのように振る舞い、圧力が変化するか。

【化学】

  • 物質の性質: プラスチックのような高分子化合物の基本的な性質と分類(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)。
  • 化学結合: プラスチックがどのように構成されているか、その分子レベルでの結合の仕組み。
  • 材料科学: 複数の素材を組み合わせて新しい機能を生み出す考え方。

これらの単元を学ぶことで、コーンフレークのジッパーだけでなく、身の回りにある様々な製品の「なぜ?」が、より深く理解できるようになるはずです。