前回の記事では、トイレットペーパーのサイズ感がどうあるべきかについてああだこうだ書き綴りました。今回のテーマは「素材」です。なぜ、パルプや再生紙以外の素材は使われないんでしょうか?トイレットペーパーに、材料面でどういったことが求められるのか、いったん先入観は一切抜きにして、色々と妄想していきたいと思います。
素材はどうあるべきか
トイレットペーパーの使われ方を改めて思い起こしてみる
トイレットペーパーの素材には何が適していて、何が適していなさそうか。それを考えるために、まずは改めて、トイレットペーパーというものがどういう使われ方をするものなのか、流れを確認してみる。今回も、ロール形状は前提条件として考えることにする。
1.ロール状に成型される
2.パッケージ化され店頭で販売される
3.購入され持ち帰られ、トイレにセットされる
4.紙を引き出される
5.おケツを拭いてトイレに流される
ロール状に成型されるには
ロール状に成型されるのだから、ロール成型に適した素材でなければいけない。パン生地が伸ばされるみたいな加工のできる素材だ。
身の周りでロール状に加工されているモノを思い起こしてみる。サランラップ、アルミホイル、セロハンテープ、銅テープ、包装紙・・・これらの樹脂や金属、紙はロール成型OKということになる。
逆にダメな素材ってなんだろう。延ばしづらい素材?脆い金属とか、何の工夫もないセラミックはダメそうだ。木も、何の工夫もなしには引き延ばせないはず。
販売から購入まで
一般消費者の日用品として販売されるものだ。ありえないくらいの重量になるような素材はNGだ。たとえば鉄。比重・・・覚えてない。5~9くらいだったか?仮にそのレンジにあるとする。ひとまず寸法は、その辺で普通に見かけるトイレットペーパーを想定することにする。正確にはわからないが、ロール内径5cm、最大外径12cm、幅15cmくらいだろうか。トイレットペーパーは「物質」じゃないから、単位体積あたりの質量を表す「かさ密度」の用語を持ち出すと
かさ密度が5のときのトイレットペーパー重量は
$${5\times (\frac{\pi 12^2}{4}-\frac{\pi 5^2}{4})\times15=28038\text{[g]}=28\text{[kg]}}$$
かさ密度が9のときのトイレットペーパー重量は
$${9\times (\frac{\pi 12^2}{4}-\frac{\pi 5^2}{4})\times15=50469\text{[g]}=50\text{[kg]}}$$
いずれにしても、ありえない重量、危険極まりない。
逆に言うと、どの程度の重量までなら許容範囲だろうか。完全に直感的だが、500g程度なら許されるんじゃないだろうか。そこでかさ密度を${x}$とすると
$${x\times (\frac{\pi 12^2}{4}-\frac{\pi 5^2}{4})\times15=500\text{[g]}}$$
これより${x\sim0.36}$となる。これは、発泡スチロールとかそんなんだろうか。かなり軽量な素材である必要を示唆している。物質そのものの比重が小さいか、もしくは物質の加工のされ方が「スカスカ」つまり、「多孔質性」があることがポイントになってきそうだ。
でも、500gもあると、たとえば6ロール詰めたらもう3kgもあり、なかなかの重さ。パッケージで1kgくらいに抑えるのが妥当だろうか?すると、1ロール160gくらい?かさ密度にすると、0.12くらいということになる。これがオーダー感として妥当なんだとすると、だいぶ素材候補が絞られそうだ。
トイレにセットされる上で考慮すべきこと
一般家庭のトイレは狭い。換気はされているだろうが、トイレットペーパーに揮発性の成分が含まれてると、中毒症状など起こしかねない。トイレットペーパーは、揮発性成分フリーである必要があるだろう。
ロールから引っ張り出して使う、に適した素材とは
ロールから引っ張り出して、適当な分量でちぎって使う、というごく単純な用法だが、これも真面目に考えると、トイレットペーパー素材に求める点は多そうだ。
まず、直接手に触れるわけなので、肌に優しい安心安全素材である必要がある。
また、引っ張り出すわけだから、その引張力で破れてしまってはいけない。
さらに、素材同士がくっついてしまわないような工夫が求められる。たとえばもしゴム製素材の場合、高温で軟化してくっついて塊になってしまい、引き出せなくなってしまうこともあり得る。
そして、最後にちぎるわけなので、ちぎりやすい素材である必要がある。
これだけの条件を見ていると、たとえばサランラップなんかも条件を満たした素材だと言える。
おケツを拭いて、トイレに流されるためには
いよいよトイレットペーパーのクライマックス「おケツ拭き」。
おケツ拭きに求められる素材特性
おケツ拭きの観点で素材に求められるものは大きく
① 肌に安心安全なこと
② 拭き取れること
の2点だ。
肌に安心安全という観点だけで考えれば、普段手で触れているような素材は基本肌に安全なのだと考えられる。コップに使われるセラミック、身の周りに溢れるポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチック、ティッシュのパルプ、服に使われているポリエステル・・・などなど。
拭き取りには、素材そのものの化学的性質もさることながら、表面の粗さなど、形態的な特徴の方が有効なのではないかと予想する。たとえば雑巾なんかは、繊維の凹凸が多数あり、その摩擦力が拭き取り力に結びついていると考えられる。すると、そういった表面加工のしやすい素材が適しているのではないかと予想される。
表面をあえて粗く仕上げるためには、たとえばエンボス加工を施したり、表面がザラザラになるよう摩耗処理的なことを加える必要があるのではないか。熱を受けて硬化する熱硬化性樹脂であれば、もしかするとエンボス加工など可能かもしれない。
しかし、たとえばサランラップのような手触りの樹脂を考えた場合、あれでおケツを拭くと、荒れてしまいそうだ。表面形状を工夫して拭き取り力をアップさせる必要はあれど、元の素材そのものはおケツに対する滑りの比較的良い素材を選んでおく必要があるのではないか。
最後に、トイレットペーパーは下水道に流す必要があるという点も見逃せない。世に放たれるわけなので、ヤバい物質が含まれていてはいけない。当然のことながら、排出規制のかかっているような物質は含んでいないはずだ。
トイレに流すためには
そして、排水管を流れていくわけなので、そこで詰まりを起こさないような工夫が必要だ。たとえば
① 流すときには細長い形状になる
② 排水管の内壁とくっつきにくい
③ 水に溶ける
などなど。
①についてはたとえば、拭いた後丸めるんだけど、流すためにリリースした後は再び細長形状に戻るような適度な剛性を持っている素材で対応できないだろうか?
②もコストを度外視すれば技術的には可能そうな気がする。排水管は・・・ポリエチレン管?ポリエチレンということは、表面に水素原子が無数に並んでいる感じなんだろうか。その水素原子を歓迎しない官能基を持った素材であれば、内壁と癒着することは避けられそうだ。
③は発想としては一番シンプルかつ強引。「消す」、と。水に溶けるといえば、食塩(塩化ナトリウム)や砂糖。
食塩が水に溶けるのは、イオン(Na⁺とCl⁻)に分かれ、水分子に取り囲まれる「電離」という原理だった。
一方、トイレットペーパーの主成分であるセルロースや、砂糖はイオンではない。これらは水に溶けてもイオンには分かれないが、なぜ水に馴染み、分散できるのか?
その鍵は、これらの分子が持つ「水酸基(ヒドロキシ基)」という共通の構造にあったはず。この構造が、水の分子と強力な「水素結合」という特殊な結びつきを作ることで、溶ける(あるいは分散する)現象が起こるということだった。
トイレットペーパーの素材に隠された設計思想を理解するためには、この「水素結合」と「ヒドロキシ基」が何者なのか、そして、なぜトイレットペーパーが「溶ける」のではなく「分散する」のか、その化学的な本質を深掘りする必要がありそうだ。
まとめ
以上、トイレットペーパーの素材について、門外漢ながら手持ちの知識だけで考えてみました。
トイレットペーパーは軽いことが大事なはず
製品の運搬性や安全性を考えると、トイレットペーパーは極めて軽量である必要がありそうです。重量の仮定からかさ密度は0.12程度の超軽量素材で構成されていることが予想されます。これは、素材自身の比重がその程度に小さいか、もしくは「多孔質性」が極めて重要であることを示唆しています。
適度な強度と柔軟性が求められそう
トイレットペーパーは、「手元でちぎれない強度」と「排水管で詰まらない性質」という、相反する二律背反を同時に満たさなければなりません。この難問を解決するためには、素材の「強度と柔軟性」、そして使用後に「流される際の形態変化」に、何らかの設計上の工夫が隠されているはずです。
流すための化学的な工夫がありそう
流したときに排水管を詰まらせないようにするための工夫はいくつか考えられましたが、いずれにせよ「化学的な工夫が必要」そうな感じがします。組成による剛性調整なのか、官能基の選択による「くっつきにくさ」の演出なのか、水に溶けること、なのか。
今回の思考実験でたどり着いた仮説
こうして考えてみると、トイレットペーパーのデザインは、単なる紙の厚さや模様の設計だけではなく、「運搬の経済性」「使用時の強度」「環境への配慮」という、多面的な知見を統合して初めて完成する知的総合力の結晶ではないかという気がしてきます。
今回の思考実験でたどり着いた仮説をまとめます。
- トイレットペーパーの素材は、運搬時の重量制約からかさ密度0.12程度の軽量素材であるはず。
- その軽量化は、発泡スチロールのような「多孔質構造」によるものと予想される。
- ロールから引き出す際の「引張力に耐える強度」と、排水管で「詰まりを起こさない性質」を両立しているはず。
- 下水道で詰まりを起こさないための解決策は、素材が「水に馴染む(水酸基・水素結合)」という化学原理の応用にあるのではないか。
- 強度と拭き取り力の両立は、エンボス加工など表面の形態的な工夫で解決されていると予想。
これらについて、実際のところどうなのか、調査結果を近日Noteで紹介しますので、お楽しみに!

